肺塞栓症
はいそくせんしょう

どんな症状が?

息苦しさ

肺塞栓症で一番多い症状が息苦しさです。典型的な場合、突然、呼吸が苦しくなり、普段であれば何ら問題なく上れた階段や上り坂で、息が切れ、途中で休まないと、それ以上動けなくなります。

肺動脈が詰まるので、動脈血中の酸素濃度は低くなります。心臓は酸素不足を補うため、頻繁に血液を送り出し、安静にしていても脈拍が増え、1分間で100回以上となることも珍しくありません。当然、呼吸回数も増加します。

このように、肺はたくさんの酸素を取り込もうとし、心臓は酸素をなんとか体に行き渡らせようと懸命に頑張るのです。

息を吸うときの胸痛

次いで多いのは胸痛です。典型的な症状は息を吸うときの鋭い痛みで、胸膜炎の時の痛みと似ています。

肺動脈の血液が急にせき止められるので、肺動脈内の圧が上昇し、肺血管が太くなることや、血圧が下がり、心臓を養う冠動脈の血流が少なくなることも、胸痛の原因となります。

その場合は、前胸部の漠然とした痛みや、胸部圧迫感・不快感といった胸痛を生じることもあります。

失神やショック

このほか失神、ショックがあります。原因は心臓から流れる血液量が減って血圧が低下することや、神経反射の影響があるためと考えられています。病状が極めて重い場合は、突然死することもあります。

心筋梗塞や脳梗塞との違い

ところで、動脈が完全に詰まるか、もしくは狭くなって起こる病気は、心筋梗塞や脳梗塞がよく知られています。

これらの病気では各臓器の細胞の一部が死滅して、組織の一部に元の状態には戻らない「不可逆的」な変化(壊死)が起こり、機能は回復しません。

しかし、肺塞栓症の場合は、肺組織が破壊されるのは患者さんの10〜15%程度と考えられています。それは肺組織には、肺動脈とともに大動脈から枝分かれした気管支動脈からも、血液が供給されているからです。

脚のはれや痛み、皮膚の色の変化

肺塞栓症の直接的原因の大半は、深部静脈血栓症<図1>ですから、この血栓症の症候(下肢のはれ、痛み、皮膚の色の変化)が約半数の肺塞栓症の患者さんにみられます。

同じような症状はほかの病気でも起こりますが、特に片側の脚に症状が出た場合は、全身性の病気による症状ではなく、深部静脈血栓症が原因である可能性が高くなります。

心臓病や呼吸器病の患者さんは、それらの臓器の予備能力が落ちているので、肺塞栓症は軽度でも重い症状が出やすくなります。こうした場合、もともとあった病気の症状なのか、肺塞栓症による症状なのか区別がつかず、診断はむずかしくなります。

<表1>に肺塞栓症の主な症候の頻度を示します。

表1 肺塞栓症患者さんの症候と頻度

表1:肺塞栓症患者さんの症候と頻度

どんな状態で起こりやすいのか?

血液が固まりやすい、静脈内血液の流れが悪い、静脈が傷ついている―という三つの状態が、静脈血栓塞栓症を起こしやすくします。しかも、これら三つの状態は、さまざまな状況で日常的にも起こりえます。

エコノミークラス症候群

エコノミークラス症候群は航空機で長時間、旅行する場合などに発生する肺塞栓症だと、最初に説明しました。

通路に面していない席では、ほかの乗客の前を移動することを遠慮してトイレに行かなくてすむように水分を控える方が、特に女性で多いようです。水分を控えていると、体内の水分が不足し、血液が固まりやすくなります。さらに、トイレへ立つことがなく、じっと座っている時間が長いと、脚がむくみ、静脈の流れが悪くなります。

それ以外に、航空機内の低い湿度、低い気圧、背が低い人ではひざの後ろ側を流れる静脈が、座席シートの角で圧迫されることが発症の危険因子と考えられています。

長距離バス、新幹線、デスクワークでも

こうした状況は航空機内だけでなく、長距離バス旅行、新幹線での移動でも起こりますし、タクシードライバーや長距離トラック運転手で発症したケースも報告されています。

長時間座ったままデスクワークを続けても、同じメカニズムで静脈血栓塞栓症は起こりやすくなります。しかし、旅行や交通機関に関連した肺塞栓症は、実は肺塞栓症を起こした人の中では特殊なケースです。

半数は入院中に発症

肺塞栓症を起こした方を調べてみて、約半数の方が入院中にこの病気にかかっていたことがわかりました。具体的には手術後、けがや骨折の後、活動性のがん、4日以上ベッドで寝たきりだった方です。

このような背景があって、トイレで失神発作を起こした場合や、ベッドで寝たままの安静期間が終わり、起きて歩き始めた時に、呼吸困難、もしくは失神を起こすのが肺塞栓症の典型的なケースです。

外来に通院中の方でも、妊娠中や、巨大な子宮筋腫(きんしゅ)がある方、ギプス固定されている方、がんの治療中(特に抗がん薬を使用中)の方は、肺塞栓症にかかる危険性は高まります。

脳梗塞や脳出血の後遺症である下肢のまひでも、脚の筋肉が動かないので静脈は拡張し、流れが遅くなります。ですから、まひ側の脚に深部静脈血栓ができやすくなります。

発症前に見つかるのはまれ

生まれつき血液が固まりやすい方(先天的凝固異常)や、後天的に血液が固まりやすい方(後天的凝固異常)も肺塞栓症を起こしやすいのですが、肺塞栓症を発症する前に、それが見つかることはまれです。

ただし、肉親に凝固異常の患者さんがいる場合や、習慣性流産を経験した女性では、凝固異常である可能性は高くなります。

高齢者がかかりやすい

高齢になるとかかりやすくなる病気は、たくさんありますが、肺塞栓症もその一つです。肺塞栓症で亡くなる方に限定しても、60歳ぐらいを境に急激に増えています<図2>。

図2 年齢別単位人口あたりの肺塞栓症による死亡(2001−2005年)
図2:年齢別単位人口あたりの肺塞栓症による死亡(2001−2005年)
20〜30歳代では肺塞栓症で亡くなる方は、多くはありません。しかし、この年代で亡くなる方は少数なので、死因としては重要な位置を占めています。

メタボリック症候群や、高血圧、糖尿病、高脂血症(脂質異常症)などの生活習慣病や、たばこや飲酒などの嗜好品と、肺塞栓症との関連も調べられていますが、現在のところ結論は出ていません。ただし、肥満が肺塞栓症のリスクであることは、皆が認めています。

従来、日本人をはじめ黄色人種では静脈血栓塞栓症が白人や黒人と比べて極めて少ないと考えられてきました。確かに国別での頻度でみると、日本人はまだ低いのですが(最近の報告では欧米と比較して1/8から1/5の頻度)、静脈血栓塞栓症の発生リスクが高くなる股関節・膝関節置換術や大腿骨骨折などの整形外科手術後では、日本でも欧米と変わらない頻度で静脈血栓塞栓症が発生していることがわかってきました。

また、腹部手術(産婦人科や泌尿器の手術も含む)でも肺塞栓症の合併が多くみられます。

さまざまな危険因子を取り上げてきましたが、一つだけでなく、いくつかの危険因子が重なって肺塞栓症を発症するケースが多いようです。

肺塞栓症を起こした患者さんの代表的危険因子の種類と頻度を<図3>に示しました。それぞれの頻度を単純に足すと100%を超えます。これは、一人の患者さんが重複した危険因子を持っている現れです。

肺塞栓症の予防はできるのか?

脚は、第二の心臓といわれることがあります。立って歩く人間にとって、心臓から送り出された血液を脚から心臓まで戻すには、歩行によって脚の筋肉が静脈をマッサージして、血液を押し上げる補助ポンプの機能を果たしているからです。

入院し、ベッドで安静にしている期間が長いと、脚の静脈に対する筋肉のマッサージ効果がないため、血管が拡張して血流は遅くなります。血流が遅くなると血栓ができやすくなりますから、入院患者さんは静脈血栓塞栓症のリスクが高くなります。

手術を受ける患者さんは、手術中に使用する筋弛緩(しかん)薬という筋肉の緊張をゆるめる薬で、ふくらはぎの筋肉の緊張がとれるため、脚の静脈は拡張します。

さらに、手術後しばらくは血液の固まる能力が高まります。このようにいくつかの条件が重なり、手術中や手術後は特に肺塞栓症のリスクが上がるのです。手術が成功しても、肺塞栓症で亡くなる方もいます。

その解決を目指し、日本でも2004年に静脈血栓塞栓症の予防ガイドラインが公表されました。予防の主な対象は手術を受ける患者さんです。

1.物理的予防法

予防法は、薬を使わない物理的予防法と、薬による予防法があります。物理的予防法には、何も道具を用いない方法と、道具や機械を必要とする方法があり、どちらも低下した脚の静脈内血液の流れをよくする方法です。

できるだけ早期に離床し、よく歩くことは、脚のポンプ機能を働かせて血液の流れを正常化させるという意味でも大切です。しかし、病状によって歩行できない場合、自分で足関節を動かしたり、脚を上げ下げしたり、マッサージをしてもらったりすることも静脈血栓塞栓症の予防につながります。

弾性ストッキングや弾性包帯

脚に装着する道具として、圧迫力が強い弾性ストッキングがあります。これは使用目的によって、圧迫の程度が異なりますので、担当医がそのことを考慮して選択します。脚の各部分の太さによって、いくつかのサイズがそろっています。

脚に巻く弾性包帯もあります。一般の包帯とは異なり、伸縮性に富んでいます。足首付近から巻き上げるので、巻き方に技術が必要です。緩んでくるので、その度にまき直さなければならず、少し面倒です。

機械を使う予防法

ふくらはぎ、もしくはひざから足首にかけて巻いたカフ(ゴムチューブ)に空気を周期的に送り込んで加圧し、静脈の流れを加速させる間欠的空気圧迫法があります。

ほかにフット・ポンプ法があります。これは足の裏側を周期的に圧迫し、間欠的空気圧迫法と同じような効果を得る方法です。

機械を使用する予防法は、弾性ストッキングや弾性包帯と比べると高い予防効果があります。しかし、すでに深部静脈血栓ができている場合、間欠的空気圧迫法は静脈壁に付いている血栓をはがし、肺塞栓症を引き起こす危険性があるので、使用しないのが原則です。

2.薬による予防法

欧米では薬による予防法が一般的なのに、日本では静脈血栓塞栓症の危険性が高い方に対しても、物理的予防法を推奨してきました。それは予防薬としての使用が、以前は健康保険で承認されておらず、治療薬による合併症の問題(出血が多くなります)が危惧(きぐ)されたからです。

しかし、以前に静脈血栓塞栓症を起こしたことがある方や、血液が固まりやすい素因を持つ方は、静脈血栓塞栓症を起こす危険性が極めて高いので、予防薬が承認される以前から薬物的予防法が勧められてきました。ここで使用される薬剤は血液が固まりやすい状態を改善します。

ごく最近まで、予防薬の使用には高いハードルがありましたが、改善の兆しが見えてきました。予防薬の低分子量ヘパリンと第10凝固因子阻害薬が承認されたのです。

日本の患者さんでも、これらの薬剤に静脈血栓塞栓症を減少させる効果が認められ、脚の手術や腹部手術には予防薬が用いられることが多くなりました。

ただし、これらの予防薬で出血性の合併症も起こり得るので、使用は担当医の判断によります。麻酔科専門医の調査によると、物理的予防法では肺塞栓症の発生は減りますが、亡くなる方の数は減りませんでした。薬による予防法が承認され、今後は手術に関連する肺塞栓症死亡者数も減少することが期待されています。

日本のガイドラインで示された手術別の静脈血栓塞栓症危険度<表2>と、危険度別管理方法<表3>をご覧ください。わが国の静脈血栓塞栓症予防ガイドラインは、新たな臨床成績に基づき定期的に改訂されています。常に最新のガイドラインをご参照ください。

肺塞栓症の治療法

治療法は一律ではありません。肺塞栓症の重症度、合併する疾患、深部静脈血栓の有無、治療する施設の特性によって変わります。

大きく分けて、薬、カテーテル治療、外科手術の三つがあります。それに、大半の方は酸素吸入が必要です。重篤な肺塞栓症では心臓の働きを強くする薬(強心薬)、人工呼吸器、心臓と肺の働きを一部肩代わりする装置(経皮的心肺補助装置)も併せて用いられます。

1.血液をさらさらにする治療(抗凝固療法)

肺は本来、体の各部分から流れてきた小さな血栓をとらえ、頭や心臓などの動脈に流れ込まないようにする働きがあり、血栓を溶かす作用もあります。ですから、新たな血栓ができなければ、時間はかかりますが、肺血管内の血栓の大半は自然に溶けていきます。

しかし、肺塞栓症を起こした方は、出血性の合併症などがない限り、抗凝固療法を行います。使用する薬剤はヘパリンとワルファリンがあります。ヘパリンは静脈注射(あるいは皮下注射)で、ワルファリンは経口薬です。ワルファリンは、血液をさらさらにする作用を十分に発揮するまでに時間がかかります。

ですから、治療はヘパリンで始め、その後、ワルファリンを追加し、ワルファリンの効果が出たら、ヘパリンを中止します。効果が得られるワルファリンの量には個人差があります。

後で説明するように、ワルファリンの効果は多くの要因に影響されるので、定期的に採血し、国際感度指数(INR)などの検査値を指標に使用量を増減します。

併用する薬、食べ物の種類や量、腸内に住みついている善玉の細菌の種類と数などによって、ワルファリンの効果は左右されるのです(反対に、ワルファリンが併用薬の効果に影響を与えることもあります)。

ワルファリンの効果を抑える納豆、クロレラなど

食べ物の影響でもっと知ってほしいことがあります。それらは納豆、健康食品のクロレラや緑の濃い野菜は、ビタミンKが豊富なためワルファリンの効果を弱くすることです。

ワルファリン服用中に納豆は食べてはいけません。納豆そのものは体に悪いわけではありません。納豆にはナットウキナーゼという酵素が含まれ、この物質にも血液をさらさらにする作用がありますが、ビタミンKも含まれているため、ワルファリンの効果が抑えられるのです。

同じ理由で、健康食品のクロレラも摂取しないでください。緑の濃い野菜を完全に取り除いて食事をすることは現実にはできません。通常の量なら問題はありません。ただ、大量に食べることは控えてください。

ワルファリンの服用期間はどれくらいでしょうか。患者さんが抱えている肺塞栓症の危険因子の特徴と、この病気を過去に起こしたことがあるかどうかによって、3か月、6か月、できれば生涯服用した方がよい、に分けられます。実際の服用期間は、主治医が教えてくれると思います。

2.血栓を溶かす治療(血栓溶解療法)

理屈では非常に有効な治療法といえます。しかし、血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)は、残念ながら出血を起こしやすくします。また深部静脈血栓が残っている場合は、それがはがれて肺動脈に流れ着き、肺塞栓症をさらに悪化させてしまう可能性もあります。

だから、こうしたマイナス面を考えても、なおメリットがある場合にのみ、この薬が用いられています。つまり、どの肺塞栓症にも血栓溶解薬が有効であるとは限らないのです。

患者さんの重症度からみて、血栓溶解薬の適応となるのは、ショック(末梢の血液の循環不全による血圧低下、意識の混濁など)に陥っている場合です。こうした重症の肺塞栓症に血栓溶解薬を使用すると、死亡率が下がることがわかっています。

また、ショックにはなっていない段階でも、肺塞栓のため右心室に負担がかかっているときには、血栓溶解薬なしでの治療は極めて難しくなるので、用いた方がよいと考えられています。

ただし、この程度の重症度の患者さんに使用する場合は、死亡率は改善しません。死亡率は下がらないものの、血栓溶解薬を使用すると、短時間で状態が改善するメリットがあります。血栓溶解薬の一種である「組織プラスミノーゲン・アクチベーター(t-PA)」は多くの場合、投与後2時間以内に効果が現れてきます。

血栓溶解薬には欠点もあります。採血をした部位など針を刺したところから、じわりじわり出血したり、手術の傷口からの出血が起こったりします。その量が少なければ、自然によくなりますが、大量であれば輸血が必要になります。

さらに重い合併症は消化管出血、頭蓋内出血です。とくに頭蓋内出血では後遺症が生じることがありますし、致命的となる場合すらありますので、十分慎重に検討した上で使わなければなりません。

使ってはならない場合(禁忌)もあります。脳血管疾患の既往のある方では頭蓋内出血が生じる可能性が高くなると考えられ、血栓溶解療法はしないことになっています。

手術直後の場合、手術部位からの出血が起こりうるのですが、血栓溶解薬を絶対に使ってはならないわけでなく、手術した臓器、手術後の日数、肺塞栓症の重症度などを考慮し、個々の症例ごとに使用するかどうかを判断します。

3.カテーテル治療

カテーテル(細い管)を使う治療法には、カテーテル血栓溶解療法、カテーテル血栓吸引術、さらに破砕術が含まれます。肺動脈内にできた血栓の近くまでカテーテルを進めて、色々な治療を行い血管を再開通させようとする方法です。

ただ単にカテーテルの先端から薬剤を流すだけでは、点滴で投与する場合に比べ、より優れた効果があるとはいえませんが、圧力をかけて薬剤をスプレー状に放出し、積極的に血栓内に薬剤を入れる投与法は、治療効果を向上させるのではないかと期待されています。

カテーテル血栓吸引術と破砕術は、言葉が示すように肺動脈内の血栓を吸い取ったり、粉々に砕く方法です。吸引できれば血液の流れの障害になっている血栓が消えるわけで、状態は劇的に改善します。

粉々に砕いてしまっても肺血管内にある総血栓量としては変化しませんが、粉々になった血栓が薬剤と接触する表面積は、粉々になる前より増加して、血栓は溶けやすくなります。

カテーテル血栓吸引術では、血栓が十分に取り除ければ短時間で病状が改善します。しかし、この方法に習熟したスタッフがいる病院でないとできませんし、治療成績も手術者の技術にかかっているといえます。次に説明する外科治療でも同じことがいえます。

4.外科治療(血栓摘除術)

肺血管内にある血栓を手術で取り除くのが、外科的血栓摘除術です。血栓が取り除ければ状態は急速に改善します。手術の適応範囲については意見が分かれています。しかし、重症なのに血栓溶解薬が使えず、カテーテル治療ができない場合は、外科療法を最優先すべきです。

5.下大静脈フィルター

下大静脈フィルターは、ここまで説明してきた治療とは異なります。

脚の静脈にできた血栓がはがれて流れてきたときに、それをフィルターでとらえ、肺塞栓症を起こさないよう予防道具として用います。

以前は、下大静脈に留置すると生涯、体に入れたままの永久留置型フィルターだけでしたが、その後、非永久留置型が開発され、現在では病状にあわせて使い分けるようになっています。

非永久留置型は(1)留置されたフィルターまで、体外から細いシャフトが伸びていて、フィルターの役目が終わると、シャフトを使ってフィルターが取り出せる一時留置型と(2)一度静脈内に留置されたフィルターを後日折りたたんで回収できる回収可能型とがあります。

短期的にみれば下大静脈フィルターは肺塞栓症の再発予防に役立つはずです。しかし、永久留置型は長期的にみると、深部静脈血栓症をかえって増やしてしまうことがわかってきました。そのため、下大静脈フィルターを用いる場合、できる限り非永久留置型を用いようという意見が日本では多いようです。

おわりに

肺塞栓症は、命を奪うこともある重大な病気です。しかし、あなたがこの病気が起こりやすい状況にあることを知って、予防法をしっかり実行すれば、発症を抑えることができます。また、最近の医療機器の発達のおかげで、迅速で的確な診断ができるようになりました。

現在、治療法は完全ではなく発展途上ですが、以前なら救命できなかった重篤な肺塞栓症でも積極的な治療で救命できるケースが増えています。

このページが、肺塞栓症予防の知識をひろめ、患者さんや家族の方には治療の日々のガイドになるのを期待しています。